東京高等裁判所 平成11年(ネ)5658号 判決 2000年3月29日
控訴人
権田功
外二九名
右三〇名訴訟代理人弁護士
吉田繁實
被控訴人
株式会社髙根計画
右代表者代表取締役
杉田憲康
右訴訟代理人弁護士
柴田敏之
同
澤口秀則
同
小畑英一
同
本山正人
主文
一 原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。
二 別紙控訴人目録一記載の各控訴人らが被控訴人の経営に係る森林公園アスレジャークラブの個人正会員として、同目録二記載の各控訴人らが同クラブの個人正会員の家族会員として、いずれも同クラブのゴルフ場施設の全日利用権を有する地位にあることを確認する。
三 訴訟の総費用は被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人らの控訴の趣旨
主文と同旨
二 控訴人らの本訴請求の趣旨
主文二項と同旨
第二 本件事案の概要
一 本件事案の概要と控訴人らの請求の前提となる事実
1 本件事案の概要
本件は、被控訴人の経営するテニスコート、ゴルフコース等の総合スポーツ施設と宿泊・研究施設が一体となった大規模な会員制レジャークラブである「森林公園アスレジャークラブ」(以下「本件クラブ」という。)の個人正会員又はその家族会員である控訴人らが、同クラブに設置されていた旧ゴルフコースが廃止されて新ゴルフコースが開設されたところ、被控訴人から求められた追加金の支払いをしなかったことを理由に、被控訴人から新ゴルフコースの休日における利用を拒絶されるに至ったため、このようなクラブ側の扱いは、被控訴人との間での本件クラブへの入会契約における合意内容に反するものであるとして、被控訴人に対して、新ゴルフコースについても全日利用権を有することの確認を求めている事件である。
2 控訴人らの請求の前提となる事実(当事者間に争いのない事実のほか、該当個所掲記の各証拠によって、これらの事実が認められる。)
(一) 被控訴人は、昭和五五年ころから本件クラブの施設工事に着手し、昭和五六年当時の本件クラブの施設はテニスコートと木造建物だけであったが、そのころ、テニスコート二四面、ゴルフコース(ナイター照明設備付きの本格的アメリカンショートコース九ホール)、プール、体育館、コンドミニアム、クラブハウス等の施設を設置する旨を説明して、本件クラブの会員を募集した。そして、昭和五七年には、総距離一〇五〇ヤード、九ホール、パー二八のゴルフコース(以下「旧ゴルフコース」という。)を設置し、昭和五八年には、テニスコート一八面、プール、クラブハウス、メインホール、宿泊棟、スポーツサウナ等の施設を設置したほか、体育館、アスレチック等の施設を徐々に拡充させていった。その結果、昭和六一年当時の施設は、これらにクラブハウス二棟、研修センターを加えたものとなり、更に、被控訴人としては、将来的にはゴルフコースを一八ホールのものにする計画を有していた。(甲一〇、一一、一三、一四、一五、二三、二八、乙五、証人杉田茂実、控訴人茂木良太郎、同権田功)
(二) 控訴人らは、昭和五六年から昭和六一年六月までの間に数十万円から百数十万円の入会金、保証金を支払って、それぞれ被控訴人との間で本件クラブの入会契約を締結したものである。本件クラブの会員には、個人正会員、個人平日会員、家族会員、法人記名式正会員等があるところ(甲九の本件クラブ会則参照)、控訴人らは、いずれも、原則として、本件クラブの休日を除くすべての日(以下「全日」という。)において施設を優先的に利用する権利を有する個人正会員(別紙控訴人目録一記載の各控訴人ら)又はこれと同一の利用資格を有する家族会員(別紙控訴人目録二記載の各控訴人ら)である。
被控訴人においては、会員との間で入会契約書等を作成しておらず、会員の本件クラブ内の施設利用等に関する基本的権利関係は、本件クラブの会則において定められているところ、控訴人らが入会した当時の会則(甲九)六条には、「会員は、会社が別に定める施設利用料及びその他の料金を支払って施設を使用することができる。但し、会社は会社の主催する競技会の開催その他必要やむを得ないと認めた場合に限り一定期間施設利用を制限することができる。」と規定されていた。
(三) しかし、被控訴人は、昭和六一年九月、旧ゴルフコースの改造、変更を念頭に置いて、被控訴人が選任した理事から成る理事会において、本件クラブの施設利用権に関する前記会則の定めを改定し、細則を制定した。前記会則六条に相当する改定後の会則(乙一)五条には、「個人平日会員を除く会員は、会社が定めたクラブの休日を除くすべての日において施設を優先的に利用することができる。但し、細則において上記と別途に制約がある場合には、これを遵守するものとする。」と規定されている。そして、新たに制定された細則(乙二)五条には、「会則が利用できる施設は、昭和六一年六月三〇日現在完成している以下記載の施設をいう。」として、ホテルアスパイア外一〇の施設を列挙し、そのうちの一つであるゴルフ場施設については「アスレジャークラブゴルフリンクスゴルフ場(但し、九ホールに限定)」と施設を明記した規定が置かれ、さらに、同六条には、「(右の)ゴルフ場が増設若しくはこれに準ずる大改造がなされた場合で会社の指定するときは、会社の別に定める追加金を支払うものとし、同追加金の支払を希望しない場合、同ゴルフ場の利用権は平日会員に変更されるものとする。」という、利用権の変更に関する規定が置かれた。(乙五、証人杉田茂実)
(四) 被控訴人は、昭和六三年一月、会員に対し、「九ホール増設工事」のため旧ゴルフコースを一時閉鎖する旨通知した上、旧ゴルフコースを廃止し、平成二年五月までの間に、その跡地等に約一五億円の工事費をかけて総距離二四六〇ヤード、九ホール、パー三五の新ゴルフコースを完成させ、これを本件クラブの唯一のゴルフコースとして開設した。(甲一六、乙三、五、証人杉田茂実)
被控訴人は、同年四月から六月までの間、前記の細則を根拠にして、個人正会員又はその家族会員に対し、三五〇万円あるいは四一〇万円の追加金を支払わなければ新ゴルフコースについて全日利用できる権利を確保することができない旨通知し、右通知において、これを支払って権利を確保するか、支払わないでゴルフ場施設については平日のみ利用できる権利に変更するか、又は退会するかを選択するよう要請した。(甲一七の一ないし七、甲一九の一ないし七、証人杉田茂実)
そして、被控訴人は、個人正会員又はその家族会員のうち、所定の期間内に追加金の支払をした会員に対してのみ、新ゴルフコースの全日利用権を認め、追加金の支払をしなかった会員に対しては、平日しかその利用を認めていない。(甲二二、証人杉田茂実)
(五) 控訴人らは、右通知を受けたものの、所定の期間内に追加金の支払をしなかったため、被控訴人から休日のゴルフコースの利用を拒絶されている。
二 当事者双方の主張
1 控訴人らの主張
そもそも、被控訴人との間での本件クラブの入会契約に基づく控訴人らの施設の利用権は、当然に本件クラブの施設全部に及ぶものというべきであるから、控訴人らは、右入会契約に基づき、本件クラブの施設の一つである新ゴルフコースについても、当然にその利用権を有することとなるものというべきである。
また、昭和五六年当時の旧ゴルフコースの設置前の時点で本件クラブに入会した控訴人らについては、被控訴人は、前記のとおり、九ホールのアメリカンショートコースで、ナイター照明設備付きの本格的なプレーが楽しめるゴルフ場を設置する旨の説明をして入会の勧誘を行い、同控訴人らは、この説明を前提として被控訴人との間での入会契約を締結したのである。ところが、旧ゴルフコースは、このような事前の説明内容とは大きく異なり、本格的なプレーを楽しめるというにはほど遠いものであり、その後の新ゴルフコースの設置によって、ようやく入会時に約束されていたような内容のゴルフコースの体裁が整えられたのである。このような経緯からして、右の各控訴人らについては、その入会契約における合意に基づき、新ゴルフコースに対する利用権が認められるものというべきである。
さらに、昭和五七年の旧ゴルフコースの設置後に本件クラブに入会した控訴人らについても、同控訴人らは、被控訴人からこのゴルフコースが将来一八ホールのゴルフコースに整備される等の説明を受けて本件クラブに入会したのであるから、新ゴルフコースは、これらの控訴人らの施設利用権の対象となるものというべきである。
仮に、控訴人らの施設利用権の対象となるゴルフコースが旧ゴルフコースであったものとしても、新ゴルフコースは旧ゴルフコースを改造したものにすぎず、両者の間には同一性が認められるものというべきであるから、この点からしても、控訴人らの施設利用権は新ゴルフコースにも及ぶものというべきである。
2 被控訴人の主張
昭和五六年の会員募集の際に被控訴人が本件クラブに設置されるものとして説明したゴルフコースは、九ホールのショートコース、すなわちパー三のショートホールによって構成される九ホールのゴルフコースであった。また、旧ゴルフコースが設置された後に本件クラブに入会した控訴人らについては、その施設利用権の対象となっていたのは、当然旧ゴルフコースである。
旧ゴルフコースは、右のとおりショートコース中心のコースであり、コースの総距離が一〇五〇ヤードで、使用するゴルフクラブもアイアンに限定されるものであったが、新ゴルフコースは、パー三五、コースの総距離が二四六〇ヤードと旧ゴルフコースの二倍以上になり、ミドルホールを中心としてロングホールをも備えた本格的なゴルフコースである。このように、旧ゴルフコースと新ゴルフコースとは、そのコースの内容及び距離の両面で全く異なるものであり、両者の間には同一性が認められないものというべきであるから、旧ゴルフコースを対象とする控訴人らの施設利用権は、当然には新ゴルフコースには及ばないものというべきである。
また、控訴人らの本件クラブへの入会の当時、将来新ゴルフコースが実現した場合にどのような条件でその新ゴルフコースの利用を認めるかについて具体的な話がされたわけではなく、むしろ新ゴルフコースが完成した場合には、新コースの内容やその建設に要した費用の金額等の諸事情を勘案し、改めてその利用に関する諸条件を取り決めることが予定されていたものというべきである。したがって、この点からしても、控訴人らが当然に新ゴルフコースの利用権を有することとなるものとする控訴人らの主張は失当である。
第三 当裁判所の判断
一 本件クラブへの入会契約と施設の利用権について
本件のようなクラブに入会したいわゆる個人正会員又はその家族会員は、特段の事情のない限り、入会契約に基づき、クラブ内のすべての施設を原則として全日利用することができる権利を有するものであって、その利用権の対象となる施設は、入会契約において定められるのが通常であるが、契約書等に明記されていない場合は、原則として、当時既に設置されていた施設のほか、いまだ設置されていないが将来設置が予定され、完成後に会員の無条件での利用に供することが暗黙のうちに了解されていた施設も含まれ、また、一見新たに設置された施設と思われるものであっても既存の施設を改造するなどして造られたものと評価できるものも、これに含まれると解するのが相当である。
そして、このようにして当初成立した被控訴人と会員との間の施設利用に関する権利義務関係は、後に、一方的にその内容を変更することはできないものであり、被控訴人が、本件クラブにおけるこれらの施設の利用について会員に対して一方的にその権利を制限することはできないものというべきである。したがって、前記のとおり、昭和六一年九月に改正された本件クラブの会則や細則には本件クラブの会員の施設利用権の範囲について定めが置かれているものの、右の会則等の改正以前に本件クラブに入会した控訴人らには、右の改正後の会則等の定めの効力は当然には及ばないものといわざるを得ない。
二 控訴人らのゴルフコースの利用権について
1 前記第二の一の2の事実によれば、控訴人ら本件クラブの個人正会員ないしその家族会員が入会した当時、入会契約によって会員が利用できる施設の範囲について、会則等に具体的な定めはなかったものの、入会時期が早く旧ゴルフコースが完成する前に入会した者であっても、入会当時、既に九ホールのゴルフコースが設置されることは確定的となっており、被控訴人においてもそれを約して会員を募集していたものであるし、旧ゴルフコースが完成した後入会した控訴人ら会員はその利用を前提として入会契約を締結したものと考えられるから、控訴人らは、その入会時期が右コースの前であるか後であるかを問わず、いずれも本件クラブの個人正会員又はその家族会員として、当然に九ホールからなる旧ゴルフコースを優先的に利用する権利を有していたものということができる。
2 ところで、新ゴルフコースは、前記のとおり、被控訴人が約一五億円もの高額の建設費用を投じて平成二年五月に新たに完成させたものであり、旧ゴルフコースの規模がパー二八、総距離一〇五〇ヤードのものであったのに対し、新ゴルフコースの規模は、パー三五で、その総距離は旧コースの二倍以上の二四六〇ヤードのものとなっていることが認められる。
しかし、他方、新ゴルフコースが、旧ゴルフコースを閉鎖してこれに代わるものとしてその跡地等に建設されたものであり、本件クラブにおいては唯一のゴルフコースであって、また、その規模は九ホールにとどまり、その距離等からしていまだ本格的コースというには足りないものであり、この点では旧ゴルフコースと変わるところがないものであることは、前記のとおりである。
また、被控訴人は、旧ゴルフコースを設置した当初から将来的にはより敷地面積の広いゴルフコースを設置する計画を有しており、そのような計画を早くから公表し、本件クラブ内に将来旧ゴルフコース以上の規模等を備えたゴルフコースが設置されることになっているかのような宣伝を行っていたことがうかがえるところである(甲二八)。
さらに、右の新しいゴルフコースの建設のための費用についても、被控訴人は、将来本件クラブに入会する新会員の預託金から新設コースの建設資金を調達することとし、旧会員からは追加預託金等を徴収しないものとする趣旨の通知を会員らに対して発していたことがうかがえるのである(甲一五)。
3 前記認定のような事実関係からすれば、控訴人らと被控訴人との間での本件クラブへの入会契約において、本件クラブ内に設置される九ホールのゴルフコースについて控訴人らにその全日利用権を付与することが約されていたことは明らかである。しかも、この利用権の対象となるゴルフコースについては、九ホールのものという以外には、その特色等に関して何らかの限定等を付する旨の合意が控訴人らと被控訴人との間に成立していたことをうかがわせるような証拠は存しないところであり、かえって、被控訴人の側では、旧ゴルフコースが存在していた当時右の入会契約による合意に基づいて控訴人らの利用権の対象となっていたものと認められる右の旧ゴルフコースについて、将来はその規模等が拡大されることがあるとする宣伝を行っていたことは、前記のとおりである。
そうすると、新ゴルフコースが設置された後において、本件クラブに設置されている九ホールのゴルフコースとしては唯一この新ゴルフコースが存在するにとどまることが前記のとおりであることなどからすれば、控訴人らと被控訴人との間での本件クラブへの入会契約による合意内容の合理的な意思解釈としては、特段の事情が認められない限り、控訴人らに付与されている右の九ホールのゴルフコースの利用権の内容には、この新ゴルフコースの利用権が含まれることとなるものと考えるのが相当である。
この点について、被控訴人は、新ゴルフコースの建設のためには高額の建設費を要しており、また、この新ゴルフコースと旧ゴルフコースとがそのコースの内容及び距離の両面で全く異なるものであり、両者の間には同一性がないものというべきであるから、旧ゴルフコースを対象とする控訴人らの施設利用権は、当然には新ゴルフコースには及ばないものであると主張する。しかし、前記認定のような旧ゴルフコースと新ゴルフコースとの関係、旧ゴルフコースの改造計画に関する被控訴人の側での過去の宣伝や説明の内容等からすれば、被控訴人の主張するような事情が右の特段の事情に当たるものとすることは困難なものといわざるを得ない。
また、被控訴人は、控訴人らとの間での入会契約においては、新ゴルフコースが完成した場合のその利用の条件等については、改めて双方で取決めを行うことが予定されていたものとも主張するが、前記認定のような事実関係からしても、控訴人らと被控訴人との間でそのような合意がされていたものとすることは困難であり、被控訴人の主張するような事実を認めるに足りる証拠は存しないものというべきである。
第四 結論
以上によれば、控訴人らの本件請求には理由があるから、これらを棄却した原判決を取り消し、控訴人らの請求をいずれも認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官涌井紀夫 裁判官増山宏 裁判官合田かつ子)